新出題基準の改訂から予想される問題
新出題基準、とくに地域・在宅看護論の改定に伴い、以下のポイントをもとに問題例を作成いたしました。
- 新規追加された小項目「パートナーシップ」に関する問題
- 地域における対象者・家族と医療者の連携について、今後一層出題される可能性がある
- 提案すべき公的サービスやその根拠法の理解について一層求められる可能性がある
予想問題
Aさん(39歳,男性)は,在宅勤務の会社員の妻(42歳)と2人暮らし.Aさんは4年前に筋萎縮性側索硬化症〈ALS〉の確定診断を受けた.2年前より全身の筋力低下が進行し,構音障害と嚥下障害がみられるようになり,胃瘻から栄養剤の注入を行っている.6か月前より呼吸障害が顕著となり,気管切開による人工呼吸器を装着し,現在バイタルサインは特記すべき変化なく経過している.ADLは全介助で,週に2~3回訪問看護を利用している.
問1
Aさんは日中1~2時間はバックレスト付き車椅子で座位保持,それ以外は特殊寝台にてFowler〈ファーラー〉位で過ごすことが多い.意思伝達装置で妻や友人達とEメールやSNSで交流を楽しんでいる.
Aさんに導入されている車椅子や特殊寝台,意思伝達装置の制度の根拠となる法律はどれか.
1.介護保険法
2.障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律〈障害者総合支援法〉
3.身体障害者福祉法
4.地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律〈医療介護総合確保推進法〉
問2
Aさんと妻は大学時代のサークル活動で知り合い,結婚生活15年目である.妻はAさんを献身的に介護しているが,更年期特有の症状により体調がすぐれない様子がみられる.訪問看護師に,「夫を心から愛していますので,毎日の介護は苦ではありません.ただ,この状態がいつまで続くのか,先が見えない不安に襲われることがあります.一生懸命生きている夫に対して,そのようなことを考える自分が嫌になります.最近,自分自身の首や肩の凝りがひどく,頭痛もあり,気分が滅入ってしまいます.」と,溜息交じりに話す.訪問看護師は,妻の訴えからレスパイトケアの必要性を感じた.
現時点で,訪問看護師が妻に紹介するサービスとして最も適切なのはどれか.
1.ショートステイ
2.療養施設への入所
3.地域生活支援事業
4.ホームヘルプサービス
問3
妻は友人達からの支えもあり,心身の健康状態を取り戻し,ALS家族会に参加するなどAさんの介護に対して前向きな姿勢がみられるようになった.妻は,「ひとりで頑張りすぎないで,公的なサービスを上手に使わせてもらい,たまには息抜きしながら夫に寄り添っていこうと思います.これからもよろしくお願いします.」と,訪問看護師に話している.
Aさん夫妻と訪問看護師のパートナーシップに基づくケアはどれか.
1.訪問看護師の主導で行う.
2.いつでもAさん夫妻の思いを最優先させる.
3.両者が対等な立場で同じ目標を共有し取り組む.
4.専門職による在宅療養チームが協働して支援する.
解答・解説
解法の要点
公的サービスの根拠法の内容を正確に理解し,設問を注意深く読み込む必要がある.カリキュラム改正に伴い,令和5年版看護師国家試験出題基準の在宅看護論/地域・在宅看護論に追加されたパートナーシップを問う問題である.
解説1
×1 Aさんは39歳であるため,介護保険の対象ではない.なお,介護保険の第2号被保険者は40~64歳までの医療保険加入者で,受給条件である特定疾病16種類の中に筋萎縮性側索硬化症(ALS)が含まれる.したがって,Aさんが40歳に達した時は,車椅子や特殊寝台は介護保険の福祉用具貸与というサービスとして使える.
○2 『障害者総合支援法』の自立支援給付というサービスのひとつに補装具の支給がある.補装具とは,障害者の身体機能を補完・代替する用具で,車椅子や相手に自分の思いを伝えるコミュニケーションツールとしての役割を担う意思伝達装置などが該当する.特殊寝台は,同法の地域生活支援事業というサービスのひとつである日常生活用具の給付・貸与における介護・訓練支援用具に該当する.日常生活用具とは,障害者の日常生活上の困難を改善し,QOLを高めることができる用具である.
×3 『身体障害者福祉法』は,身体障害者の定義や身体障害者手帳などについて規定している.補装具や日常生活用具のサービスは規定されていない.
×4 『医療介護総合確保推進法』の狙いは,医療と介護の連携を強化するとともに,地域における自助・互助(住民同士の助け合い)の潜在力に支えられる地域包括ケアシステムを構築していくことである.
〔正解〕2
解説2
○1 Aさんは6か月前から気管切開による人工呼吸器を装着しているため,数時間毎の痰の吸引や体位変換などが必要と考えられる.ショートステイはAさんと妻が話し合って定期的に利用することで介護負担を軽減でき,更年期による体調不良の改善にも繋がる.Aさんを心から大切に思う妻に対して,在宅介護の継続に向けた精神的・身体的支援となり,最も適切である.
×2 妻はAさんの施設入所は望んでいない.
×3 地域生活支援事業は,『障害者総合支援法』のサービスの一体系である.相談支援や成年後見制度利用支援,日常生活用具の給付・貸与など,地域で生活する障害者の日常生活や社会生活を支援する内容が多く,レスパイトケアに該当しない.
×4 ホームヘルプサービスは,料理・洗濯・掃除などの家事援助サービスである.設問中に妻の家事に対する負担の訴えはなく,レスパイトケアに該当しない.
〔正解〕1
解説3
×1 対象者と看護師のパートナーシップの原則は,両者が対等な立場であることとされる.看護師が自分の考えで一方的に支援していくことは,対象者を下位にみており,自立心を弱めることにもなりかねない.
×2 対象者の思いを最優先させることは,対等な立場とはいえない.たとえば対象者が知識不足から健康を害する方向に向かっているとき,看護師は専門職として助言し,健康を取り戻せるように導くことも必要である.
○3 地域・在宅看護実践において大切な要素が,対象者とのパートナーシップである.パートナーシップは,具体的には相手のテリトリーに配慮し訪問先では相手の許可を取ってから行動する,訪問時間を守る,相手の反応をよく観察する,相手の現実を否定せず肯定から始めるなど,対象者との信頼関係を築くことから始まる.対象者と看護師が相互に信頼し合い,関係性を築き,健康課題の改善に取り組む過程で共に学び合うことで,パートナーシップはさらに深まる.
×4 設問は,対象者と看護師のパートナーシップを問うている.療養者を支えるチームを作り上げるため,保健医療福祉部門の専門職が常に連携し,それぞれの「できること」と「できないこと」を補完し合い,対等な立場で互いを尊重することで信頼関係が生まれるのは,専門職間のパートナーシップである.
〔正解〕3