コラム:看護過程のアセスメントの枠組みには何を使ったらいいのか?
現在、国内では様々なアセスメントの枠組みが紹介されていますが、数が多く、どれを使用すべきか悩むこともあると思います。どのアセスメントの枠組みを使うのがよいのでしょうか。
例えば、日本の看護教育では、看護過程の展開にヘンダーソンの14の基本的欲求が使用されていることも多いです。しかし、ヘンダーソンの『看護の基本となるもの』が出版されたのは1961年であり、出版からかなりの月日が経過しています。出版当初は看護過程が現在のように発達していなかったため、看護過程の記述はありません。
ヘンダーソン14の基本的欲求
特徴 | アセスメントの枠組み項目 |
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人間には基本的欲求があり、必要な体力と意思力と知識があれば、自立して充足することができるという看護論に基づき、人間の14 の基本的欲求を示した。 | ①正常な呼吸 ②適切な飲食 ③老廃物の排泄 ④望ましい姿勢 ⑤睡眠と休息 ⑥適切な衣類選択と着脱 ⑦体温の維持 ⑧身体の清潔 ⑨安全 ⑩コミュニケーション ⑪信仰 ⑫仕事 ⑬遊びやレクリエーション ⑭学習 |
そのため、ヘンダーソンの『看護の基本となるもの』をもとに看護過程を展開する際には、具体的なデータ収集項目の抽出や、問題を導くうえでの判断は、使用者が自ら考えて行うことになります。またアセスメントでは、常在条件および病理的状態の情報をふまえたうえで基本的欲求についてデータ収集する必要があり、さらに未充足という「人間の反応」の原因を分析するうえでは体力、意思力、知識の視点が必要です。このように情報が膨大なうえにいくつもの作業を必要とします。書籍『看護がみえるvol.4 看護過程の展開』では,これらを考慮した「アセスメントの視点に必要な情報項目の例」を示したので参考にしてみてください。
「ヘンダーソンの定義する14 項目は生活に焦点を当てているからわかりやすい」と考えている方は、「ローパー・ローガン・ティアニーの生活行動看護モデル」を検討してもいいでしょう。なぜなら、このモデルはヘンダーソンの看護論と同じように「患者さんの生活行動と個別性に焦点を当てたモデル」だからです。そして、ヘンダーソンの看護論と違い「アセスメントを行うことを目的につくられた比較的新しいモデル」なので、看護過程に利用しやすいという利点もあります。
ローパー・ローガン・ティアニーの生活行動看護モデル
特徴 | アセスメントの枠組み項目 |
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看護を必要とする問題を、生活行動における依存と自立の変化としてとらえ、依存する場合には個別の看護が必要になる、という理論に基づき、人間の12の生活行動を示している。 | ①安全な環境の維持 ②意思疎通 ③呼吸 ④飲食 ⑤排泄 ⑥清潔の保持と着衣 ⑦体温調節 ⑧移動 ⑨労働と休息 ⑩性の認識 ⑪睡眠 ⑫死 |
NANDA-Iの看護診断の分類法Ⅱをアセスメントの枠組みに使用することもあります。しかし、分類法Ⅱはあくまでも看護診断を分類する目的で開発されたものであり、NANDA-I も「アセスメントの枠組みとしての活用を意図したものではない」と明言しています。また、オスロ・メトロポリタン大学のガン・フォン・クローは、分類法Ⅱの問題点として、領域(ドメイン)や類(クラス)の重複と不足、さらに領域や類の数が多すぎて使いづらいという指摘をしており、アセスメントの枠組みとして用いるには注意が必要です。
NANDA-Iの看護診断の分類法Ⅱ
特徴 | 看護診断の13の領域 |
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NANDA-I看護診断を看護学の知識体系に基づいて領域別にまとめたものである。そのため、「人間の反応」をもれなくとらえるために開発されたものではなく、アセスメントの枠組みとして使用することは推奨されていない。 | ①ヘルスプロモーション ②栄養 ③排泄と交換 ④活動/休息 ⑤知覚/認知 ⑥自己知覚 ⑦役割関係 ⑧セクシュアリティ ⑨コーピング/ストレス耐性 ⑩生活原理 ⑪安全/防御 ⑫安楽 ⑬成長/発達 |
ゴードンの11の機能的健康パターンは、もともとアセスメントの枠組みとして開発されたものだけあって、患者さんのデータをもれなく収集し、患者さんの全体像をとらえることに適しています。ただし、この枠組み自体は看護理論ではなく、また、特定の看護理論に基づいているわけでもありません。したがって、ゴードンはこのパターンを用いて看護過程を展開する場合は、いずれかの看護理論と併用する必要があると述べています。
ゴードンの11の機能的健康パターン
特徴 | アセスメントの枠組み項目 |
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機能面からみた健康パターンに焦点を当て、どのような看護場面でも適応できるアセスメントの枠組みとして開発された。人間の11の機能的健康パターンを示している。 | ①健康知覚-健康管理 ②栄養-代謝 ③排泄 ④活動-運動 ⑤睡眠-休息 ⑥認知-知覚 ⑦自己知覚-自己概念 ⑧役割-関係 ⑨セクシュアリティ- 生殖 ⑩コーピング- ストレス耐性 ⑪価値- 信念 |
どの枠組みを用いるうえでも重要なことは、枠組みにただデータを当てはめていくことではなく、目的をもってアセスメントし、看護につなげていく意識をもつことです。
それぞれの枠組みの特性を知り、適切な援助が行えるようにアセスメントに取り組んでいきましょう。
(『看護がみえるvol.4 看護過程の展開』p.46より一部改変して掲載)
関連するキーワードと『看護がみえるvol.4 看護過程の展開』の対応ページ
キーワード | 対応ページ |
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アセスメントの枠組み | p.44 |
ヘンダーソンの14の基本的欲求 | p.50~53 |
データ収集 | p.70 |
「人間の反応」 | p.12 |
ローパー・ローガン・ティアニーの生活行動看護モデル | p.45 |
NANDA-Iの看護診断 | p.117 |
ゴードンの11の機能的健康パターン | p.54~69 |
