【看護教員向けインタビュー記事】

看護診断研究会で代表を務める黒田裕子先生に、メディックメディア看護編集部が看護過程や実習の指導についてお話を伺いました。

———看護学生が看護過程を学ぶことの意義について、どんなことをお考えでしょうか。

黒田裕子先生(以下、同):“看護”は“医学”と違って、疾患をはじめとした組織や器官、細胞の異常に対して介入するのではありません。患者さんを全人的にとらえ、看護的な視点で問題を見出し、それに対して援助する。言いかえると、人間の行動を科学的に追究し、看護的な視点でプロフェッショナルとしてお助けする。そして患者さんの健康状態を良好にしたり、維持したりする、あるいは病気を予防していく。
 これらを看護師は「看護計画」というかたちで、プランニングして行います。その看護計画をたてるうえで、看護過程を学ぶことは非常に重要です。

 

———大学で看護過程を指導されていたときのことを教えてください。

 大学で成人看護学を教えていたときは、カリキュラムが過密な大学もありました。1回90分×5回の授業で看護過程の思考からはじまり、NANDA-I分類法Ⅱの13領域を1つひとつ説明し、看護診断、看護介入といった看護過程のすべてを教えなければならない。時間に余裕がなかったため、すべての授業でQ&Aを行い、学生の疑問点を授業の冒頭で毎回答えるようにして、少しでも学生の疑問がなくなるように工夫しました。

 

———授業で使われた事例はどんな事例でしょうか、またどのように作られていましたか。

 成人看護学分野を学ぶ初学者には慢性腎不全を扱いました。初学者にとって外科分野は難しいので、慢性的な疾患やリハビリテーションの分野から事例を作成しています。実際の事例を使うのは倫理的な問題がありますので、わたくしが代表を務める看護診断研究会のメンバーと協力しながら架空の事例を作っています。こちらが望む看護診断がつけられるような適切な事例になっているか、無理のある事例になっていないか、といったことを検討しながら何度も修正を重ねて完成させています。さまざまな病棟で働いている現場のナースたちのおかげですね。

 

———看護学生が看護過程を展開するうえで、学生が苦手だと思うところはなんでしょうか。

 学生によって千差万別ですが、理論がわかっていないことで、アセスメントが不足する学生が多いように感じますね。理論とは、中範囲理論やストレスコーピング理論、危機理論などの実践的な理論をさします。これは現場のナースも弱い部分。
 理論にはさまざまありますが、例えば、心理的ストレス・コーピング理論を用いて患者さんをみたとき、①ストレスフルと受けとめているのか,②何も感じていないのか,③良いものととらえているのかといった3つの視点でみることになります。もしも患者さんが①だと捉えていれば、患者さんはコーピングを行って、積極的・意識的に乗り越えようと努力します。そこに看護師はコーピング行動が促進されるようサポートしますよね。効果的なサポートは、患者さんのコーピング行動を促進し、早く適切な結果を導くことができますから、理論を使って患者さんをみることが結果的に効果的な看護につながるのです。
 同時に、教員も中範囲理論が頭に入っていないといけません。これが身についていない教員も多いのではないでしょうか。この引き出しを学生に与えることができないと、学生も学ぶことができないと思います。

 

———看護実習で学生が苦手とすることはなんでしょうか。

 実習中では、やはりコミュニケーションスキルが低いことが目立ちます。患者さんのお話を聞けない。ベッドサイドに行くことすら怖がってしまう学生もいます。そんな学生にはまず2週間の実習の最初の3日間は、とにかく患者さんとお話することに慣れてもらう。「カルテから情報をコピーしてくるのではなく、とにかく患者さんのところに行きましょう」と。患者さんに興味を持つところから教員は指導・アドバイスすべきだと感じています。

 

———患者さんとのコミュニケーションのとり方について、具体的にどのように指導していますか。

 どういう切り出し方で患者さんに話しかけたらよいかわからない学生には、はじめは一緒に患者さんのところへ行って接し方を見てもらいます。そして次からは、それを参考にして1人で話をしに行ってもらいます。ただ、最近では短期入院が多く、学生が患者さんにやっと慣れてきても退院してしまうことも多く、経験が身につかないまま2人目、3人目の患者さんを受け持つことも少なくありません。
 そのため、時間がないなかでコミュニケーション能力を育むために、自宅で練習するように指導することもあります。例えば、家族の話を、逆らったり言い返したりせずに、受容的に傾聴するよう伝えます。ほかには、家族に患者さん役になってもらい、「私はあとどれくらい生きられるのか」「私の病気は治るのか」といった病気に関する質問をしてもらい、学生がそれに答える。その際に病棟チームで共有している情報の範囲内で答えること、患者さんに伝える内容を教員や実習指導者に確認することとし、自分勝手に答えてはならないことをルールにしています。

 

———患者さんとコミュニケーションし、行動に関する情報を収集することについて、指導のコツはございますか。

 人間を観察して行動を描写し、それについて考えたことを書いてもらう。これをくり返して思考の開発をしていってもらいたいです。情報収集が苦手な学生は、この描写を省略してしまっているのです。映画のシナリオのように患者さんの行動を描写することができれば思考も整理されてきます。
 その訓練として、演習時に自宅の家族との場面などを文章で書いてもらう。そうやって観察・描写することの延長線上に、患者さんの行動を見たり、コミュニケーションしたりするのだと思います。医学的な正常・異常は理解しやすいのですが、やはり人間の行動の意味を掴むのは訓練が必要です。訓練を重ねて、人間の行動の意味を読み取って解釈し、語彙力と観察力を身につけてほしいですね。たとえば、「患者さんがストレスだと言っていた」「夜中にナースコールを5回鳴らした」だけではなく、“心の蓋”を外して、その言動の根底にあるものまで見ていかないと。そこを考えるのが看護師の思考です。
 同時に、看護学生にそこを考えてもらうのが教員の役目です。決して答えは言いません。患者さんの気持ちを探っていく力を養うために、教員が学生にうまく問いかけてあげることが必要だと思います。

 

———患者さんの疾患に関する情報収集については、学生にどのように指導していますか。

 初学者は、まず疾患の経過やデーターベースの見方がわかりません。また、学生が実習で受け持つのは複数の疾患を抱えている患者さんなど、学生にはハードルが高い事例がほとんどです。そのため、例えばどのような経緯で患者さんの容態が悪くなってしまったか、このデータはどうしてこうなったかなど、ある程度考え方の切り口を提供することもあります。

 

———最後に、看護教員のかたへメッセージをお願いします。

 1人ひとりの学生に対して教員がフェアに指導することを大事にしていただきたいと思っています。看護師にとっての基本かもしれませんが、学生と人間関係をうまく築き、病棟のナースにうまく橋渡しができれば、学生の看護実習へのモチベーションが高まりますし、看護師に対する夢も広がると思います。
 実習が楽しかったと、学生が心底いえるのが理想なんです。とはいえ、そうならないケースもある。私自身の経験としても、本当に実習指導は難しいと実感していますが、若い学生たちが看護師となり羽ばたいていけるよう看護教員が全力でサポートしていってほしいと願っています。

(聞き手・撮影  編集部)

黒田裕子先生、お忙しいなかインタビューにお答えいただきありがとうございました。

 

黒田裕子先生PROFILE
看護診断研究会 代表
http://nrs-ndc.info/

黒田裕子先生の主な著書
・黒田裕子の入門看護診断(改訂第3版)(照林社、2018)
・黒田裕子のしっかり身につく看護過程(改訂第2版)(照林社、2018)
・黒田裕子の看護研究step by step(第5版)(医学書院、2017)

・ケースを通してやさしく学ぶ看護理論(改訂第4版)(日総研、2016)
・看護診断のためのよくわかる中範囲理論(第2版)(学研メディカル秀潤社、2015)